売茶翁の京都・洛北での売茶翁の足跡を辿ります。江戸時代に出版された名所案内書や「売茶翁茶具図」等から、当時の様子に迫ります。
- 売茶翁の足跡を辿る|京都編(洛北)
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糺の森@左京区
「甘味依然として 世味に非ず 清談 茶熟して 幽玄に到る」(携友遊糺)
売茶翁は、下鴨神社の境内の糺の森の水を汲み、茶を淹れていました。「携友遊糺」の詩の中で、「洛陽第一泉」(=京都一番の泉)と讃えています。
清風の茶旗
「茶帘(ちゃれん) 掲げ出だす 清風の機(はた) 」(糺森設茶店)
売茶翁は野外で茶席を開く時、松の枝等に「清風」の茶旗(=茶帘)をかけ、茶店の目印としていました。木村蒹葭堂の著「売茶翁茶具図」に、売茶翁の茶旗の図が残されています。
茶道具を持ち運んだ「仙窠」
「仙窠 題し成す 炉上の文」(糺森設茶店)
「仙窠」(せんか)は、茶道具を入れて運ぶ籃のことです。売茶翁はこの仙窠を天秤棒で担いで各地で出向き、茶を淹れていました。
「売茶翁茶具図」には、「高一尺七寸、方八寸五分 格上間一尺餘、格下五寸」と書かれており、高さ 64.6cm・幅 32.3cm、内部は上部が 約38cm・下部は19cmの大きさだったことが分かります。
江戸時代の糺の納涼床
江戸時代に出版された「都林泉名勝図会」の巻之二には、「河合納涼(糺の納涼)」と題し、糺の森の川辺の絵が描かれています。現在と比べ、川の水量が随分と多い様子が伺えます。
糺納凉はみな月十九日より晦日に至るまで、下鴨社頭御手洗川のほとり、神の杜の木陰に茶店を設けて遊宴して炎暑を避るなり。雲井於社の清泉には、甘瓜心太を冷し、御手洗団子は竹串に刺て売る。
上賀茂には申楽ありて林間に笛皷の音さへていと凉し、夏の火と秋の金は火尅金にて相生ぜず、故に厄気を和儺の神事なり、これを夏越の祓といふ。下鴨を御祖神社、上賀茂を別雷神社といふ。
都林泉名勝図会(著:秋里籬島、絵:佐久間草偃・西村中和・奥文鳴、1799年)
旧暦6月(水無月)の19日~31日の間、下鴨神社の境内を流れる御手洗川(みたらしがわ)のほとりには、茶店が軒を並べていました。冷やしたところてんやみたらし団子が売られ、涼を求める人々が集い、とても賑わっています。
売茶翁 没後二百五十年 記念碑
「茶具を担い 蝸舎を出て 檻泉を択んで 鴨川に遊ぶ」(遊鴨河煮茶)
鴨川にかかる北大路橋の東詰北に、「売茶翁没後二百五十年記念碑」があります。京都府立植物園の近く、枝垂れ桜の名所「半木(なからぎ)の道」の南端です。
売茶翁の没後250年を記念して、全日本煎茶道連盟によって2013年に建てられました。石碑には売茶翁の「遊鴨河煮茶」の詩が刻まれています。
- 半木の道(京都市左京区下鴨半木町)
- 売茶翁没後二百五十年記念碑
東岩倉山@左京区
「遠く翠微に上りて 市塵を出ず 青松 紅樹 自ら天真」(遊東岩倉)
70代後半の頃、売茶翁は東岩倉山に登り、松の緑・木々の紅葉と、自然の美しさを謳っています。
東岩倉山(左京区粟田口大日山町)は、左京区の南東・東山の一角にあります。平安京の造営の際、「山の岩に神は鎮座している」との自然信仰から、京都の四方(東西南北)に岩倉が奉られました。
東岩蔵 真性院は神明宮 左りの山頂にあり、本尊は十一面観音を安置す。むかし王城の四方に経王を蔵むらる。その石蔵の一ツなり。當山の土は陶工に可なり。栗田焼 清水坂の土器等 此地の土を用ゆ。
京都名所独案内(的場麗水 明治36年)
王城鎮護の「一切経」を埋納した岩倉から「東岩倉山」の名がつき、のちに山頂にあった真言宗の寺院「真性院」の石造大日如来像にちなみ、大日山と呼ばれるようになりました。
かつての藤の名所「真性院」
東岩倉山の山頂にあった真性院は真言宗のお寺で、売茶翁はこのお寺を訪れるため、東岩倉山に登ったと思われます。
真性院は、江戸時代の京都の名所案内「都名所図絵」で紹介されているお寺で、浮世草子「好色五人女」でも藤の名所として登場しています。
過ぐる年、人の心も浮き立つ春も深まって、「たそがれの藤」と知られる東山 真性院の藤が花盛りとなって、紫の雲のようにたなびくと、見物客がどっと押し寄せたが、夕暮れちかく藤見帰りの人ごみに混じる美女の群れは、東山の上にまた山をきずくように見えた。
好色五人女(井原西鶴 1686年)
売茶翁が詩を読んだのは紅葉の頃で秋ですから、藤の季節ではありませんが、風光明媚な名所として名高い地であったことが伺えます。真性院は応仁の乱で焼失してしまったため、現在は残っていません。
羽化登仙の道服「鶴氅衣」
売茶翁は、「鶴氅衣」(かくしょうい)という、中国風の衣服をまとっていました。鶴氅衣の詳細は、下記ページをご覧ください。