茶室研究者・堀口捨己氏の茶室。とこなめ陶の森 陶芸研究所@愛知県

とこなめ陶の森 陶芸研究所@愛知県常滑市

「とこなめ陶の森」資料館を後にし、陶芸研究所へ。

2023年に国の登録有形文化財に登録されたばかり。初代常滑市長にしてINAXの創業者、伊那長三郎(1890-1980年)の寄付によって建てられ、今も開館当時の姿のまま使われている。陶芸研究所はいつでも見学を受け付けており、入館は無料だ。

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堀口捨己設計の「とこなめ陶の森 陶芸研究所」

こちらの陶芸研究所は、建築家にして茶室研究者の堀口捨己(ほりぐちすてみ 。1895―1984年)氏による設計。全国から建築ファンが訪れるそうだ。

研究所の向かいには桜の木が植えられており、訪れたのは花も盛りを過ぎ、葉桜へと向かう時期だったが、風が吹いては舞い散る桜がきれいだった。

モザイクタイルのモダニズム建築

遠目には白く見えていた外壁は、霞がかったような薄紫のタイルで全面を覆われており、よく見ると上下で淡いグラデーションになっている。上品で繊細な色合いが和を感じさせる。

とても1961年(昭和36年)に建てられた建造物だとは思えない。タイルといい、大きく張り出した庇に看板といい、なんともモダンで凝った造り。

エントランスと玄関ホール

玄関の扉のガラスも紫色。取っ手部分の飾り?は金で、扉を閉めると円に。紫に金とはかなり派手好み。桜の花びらが階段にまで吹き寄せられていた。

自由に見学できるとのことだったが、とても静かな場所で人の姿がないので、本当に中に入っていいのか戸惑う。職員の方がどうぞと声をかけてくださった。建物に入ると、玄関ホールには宙に浮いているような吊り階段。

こちらの階段は真鍮製で、元々は金色だったそうだ。かなり攻めている。

吹き抜けの天井がハニカム文様になっていたりと、見どころが多く面白い。

堀口捨己の茶室

玄関ホールに入って左手には展示室。右手の「応接室」に入ると、真っ赤なソファーの奥には茶室が。

座っている方がいらっしゃったので写真は取らなかったが、大胆な和洋折衷はまるで映画のセットのよう。

堀口捨己の茶室(1階)

この茶室は、ソファーに座って、茶を立てる様子を眺めることを前提に作られたのだろうか。使うことよりも茶室空間の拝見を目的としていた?導線などを考えると、なんだか不思議な空間だった。

しげしげと見ていた所、「建築見学の方ですか?二階にも茶室があって見学できますよ」と、研究所の方がご丁寧にも案内してくださった。

堀口捨己の茶室(2階)

浮遊感のある釣り階段を登り、2階へ。

こちらの茶室はなんだかほっとする空間で、障子を開けると緑がまぶしい。右手の障子を開けると、竹縁の月見台があり(京都の桂離宮へのオマージュだそう)、外の自然も感じられて、個人的には1階よりも2階の茶室のほうが好きだ。

茶室の天井は竿縁天井。そして、目立たぬよう木組みで目隠しし、蛍光灯が仕込まれている。当時の新しい技術を積極的に取り入れて、あえて蛍光灯を用いたそうだ。

抹茶の方の茶道は私は全く詳しくないのだが、堀口氏は「利休の茶室」(岩波書店、1949年)、「利休の茶」(岩波書店、1951年)という本を執筆しているそうだ。貴重書のためか、気軽には求めにくい価格になっている。

また、愛知県には、高級料亭「八勝館」に、堀口捨己が建築を手掛けた茶室があるそうだ。こちらはお庭も素晴らしいそうで、Wanna Goリストにそっとメモしておく。

屋上のトップライト

ベランダから階段を登り、屋上へ上がると、広々とした空間が広がっている。高台にあるので、とても見晴らしが良い。海も見える。研究所の眼の前には古い木の桜があり、花見にピッタリの場所だ。

1階からはその全容は見えなかったが、展示室への明り取りとして、特徴的な大きな三角の天窓「トップライト」がある。

中央のV字のくぼみ。水はけをよくするためなのだそうだが、角度がゆるやかで少し心もとない気もする。剥がれたタイルが散らばっていたが、それすらデザインのように見えた。

カラコンモザイクタイル

淡い紫色のタイルは、当時最先端技術の「カラコンモザイクタイル」(伊奈製陶製)で、窯の煤や海からの潮風から建物を守るためなのだそうだ。※カラコンはカラーコンディション(色調整)の略。

当時は数百の窯があり、煙突から黒煙を流れるので、「常滑のスズメは黒い」と言われるほどだったとか。外壁のタイル貼りは、デザインだけでなく、機能性も持ち合わせたものだった。

天井の蛍光灯を取り替えるための扉。

よく見ると縦に横にと、こちらのデザインも凝っている。アクリルかプラスチックなのか、ガラスではなく少し軽めの素材に見えるが、スタッフの方に訪ねた所、なんの素材かはよく分からないらしい。

土で表現した大理石

1階に戻り、玄関ホールへ。必見なのが、伊奈製陶株式会社(現LIXIL)の創業者、故・伊奈長三郎氏のレリーフ。

てっきり大理石だろうと思い、気に留めていなかったのだが、なんと焼き物。石の文様を陶器で表現し、磨きをかけてピカピカにしている。さすが焼き物の街。職員の方の説明を聞かなければ、この凄さに気づかず見過ごす所だった。

「おそらく当時の最先端の技術で、堀口は本当は壁一面にこの焼き物を使いたかったようですが、予算の関係で一部のみ採用されたようです」

左:常滑研究所の初代所長の伊奈五助翁之像
右: INAXの創業者、伊那長三郎氏像。どちらも銅ではなく陶。焼き締めで作られている

職員の方の熱意のこもった話も面白く、様々な話を聞けて大変勉強になった。また、お話を聞かなかったら、細かなディティールや建築の価値が分からなかったことと思う。大変親切にして頂いた「とこなめ陶の森 陶芸研究所」の方に感謝したい。

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