とこなめ陶の森は、資料館・ 工芸研究所・研修工房の3つの施設がある。陶芸研究所の奥に進むと、研修工房がある。見学OKとのことで、中を拝見させていただいた。
とこなめ陶の森 研修工房
こちらの研修工房は、「やきものづくりを生業とする人材を育てる」ことを目的とし、2012年4月に新設された比較的新しい施設で、常滑のやきものづくりの技術を学ぶことができる。
研修室
広々とした空間に、様々な機械が設置されている。詳しくないので見ただけでは分からないのだが、研修工房のホームページによると、以下の機械があるそうだ。
- 電気窯(12kw、26.5kwを1基ずつ)
- ガス窯 (0.35m3 、1.0m3 を1基ずつ)
- 真空土練機(循環式/磁器・半磁器用)
- バフ(研磨用の機械)
- 施釉ブース
- ポットミル
- ベルダー
研修生以外も利用できるよう、有料で貸し出しをしている。卒業しても使えるわけだから、うれしい取り組み。
陰干し中だろうか。急須に涼炉もある。
自分以外に見学している人がおらず、あまりにも静かで本当に見学していいのか若干不安になる。とはいえ、職員の方に断りをいれ、「どうぞ見ていってください」ということだったので、ブラブラと見学することにする。
やきものの釉薬
瀬戸釉・唐津釉・黒釉・透明釉・土灰釉・乳濁釉・ワラ灰釉 etc、棚のバケツには様々な釉薬が。
こちらは釉薬の色見本。発色の違いをわかりやすく説明するだめに、実物の陶片が貼り付けられている。
常滑独特の「チャラ」
1つ気になる釉薬のバケツがあった。「黒チャラ」とは一体なんだろう。
陶芸用語で、恐らく釉薬の種類の1つなのだろうが、カタカナで「チャラ」とは謎の響き。なにかの略称…?
後日調べた所、「チャラ」とは常滑独特のものらしい。
チャラとは常滑焼産地特有の呼び名で、一般的には液体状の化粧土です。
とこなめの陶芸粘土・釉薬(陶芸用品)について(とこなめ焼競合組合)
<チャラの特徴>
- 釉薬と化粧土の中間のような素材で、常滑独自のもの。元々は量産急須の化粧に用いていた
- 土の粒子が細かく、調合により様々な色を作ることができる
- 表面にかけて焼くことで、器を汚れキズから守ることができる。器のキズも隠せ、水も染みにくくなる
- チャラをかけた器は、使い込むほどに艶が生まれる
釉薬とも少し異なり、コーディング剤のような役割を果たすものらしい。黒チャラだけでなく、赤チャラ・白チャラなどあり、なんだか猫の毛模様の呼び名のようだ(黒ブチ、白ブチ、茶トラ、キジトラ etc)。な
おそらくこちらの白いティーポットは、「白チャラ」をかけたものなのだろう。
元々の素材を活かし、マットな質感になるが、使い込むほどに艶が生まれるという、器を育てる喜びももたらしてくれる。昔の朱泥急須がツヤツヤなのも、チャラのおかげだろう。
なぜ「チャラ」と呼ぶのかについては、分からなかった。キズをチャラにしてくれるからだろうか。
釉薬の原料も、そこかしこに置いてある。こちらは灰釉の原料。これが器の美しい色艶に化けるのだから、自然の力と最初に発見した人はすごい。
研修工房の2階にあがると、教室でちょうど研修生の方がロクロをひいていた。海外の方もいて、集中して作業をしている。邪魔しないよう、気配を消してそっと立ち去った。
姥捨て山ならぬ、やきもの捨て山
研修室の外に出ると、敷地内に廃棄された焼き物の山が。研修工房の勉学による副産物、試行錯誤の跡が見て取れるようだ。
これだけの量があると、リサイクルできないものかと、つい考えてしまう。仮に埋め立てたとしても、土には還らないと言うし(縄文時代の土器しかり)。廃棄はどうしても発生してしまうものだから、作り手としても悩ましい問題なのではないだろうか。
岐阜県の美濃焼では、「グリーンライフ21」プロジェクトという取り組みを行っており、全国各地の自治体やNPO・市民団体と連携し、不要になった陶磁器を回収し、再資源化。器を粉砕して土と混ぜて焼き物を作り、「Re食器」と名付けて販売している。
また、世界最大の陶磁器生産国である中国でも、陶磁器のゴミ問題は深刻で、レンガやタイルなどに再利用しているらしい。原料の土には限りがあるわけだし、こういった取り組みが広がり、一度捨てられた器が別な形で再生し、循環していくサステナブルな仕組みができるとよいなと思う。
薪窯
研修施設を更に奥に進むと、薪窯が。
電気窯やガス窯だけでなく、薪の窯もあるとは。外からは全く伺いしれない。研修では薪窯焼成の授業もあり、薪割りから窯詰め・火入れ・窯出しの一連のプロセスを体験できるそうだ。
つくり手を目指す研修生を募集中
「とこなめ陶の森 陶芸研究所」では毎年研修生を募集している。
定員は5名、研修期間は2年間で、以下の条件に該当していれば、陶芸経験がない方も受け入れており、やきものづくりを基礎から学ぶことができる。
- 満40歳未満の人
- 大学・高等学校卒業及び卒業見込みの人
- 心身ともに健康で、研修期間を通じ熱意をもって研修に専念できる人
- 研修修了後、引き続き陶業陶芸を仕事として継続する意思のある人
研究所の職員の方に話を伺った所、「以前は脱サラした社会人が多かったのですが、最近は海外の方が【急須作りを学びたい】とやってきています。今年は中国や韓国・ハワイの方がいて、研修生の半分は海外の方なんですよ」とのこと。海外にも急須の魅力が広まっているとは、全く知らなかった。
陶芸研究所の研修内容
これまで多くの陶芸家が常滑の研修工房を巣立っており、卒業生の数は優に160名を超え、山田勇太朗さん(第33期生)などの有名な急須作家さんを輩出している。
土づくり・ロクロ・手捻り・鋳込・絵付け・釉薬といった焼き物作りの授業から、作品の写真の撮影方法を学ぶ情報発信力の授業まで、幅広い。この内容で月2万円は、良心的というか相当安いのではなかろうか。
とこなめ陶の森のYourubeチャンネルでは、研修工房の紹介や・授業の様子を発信している。もしもこの記事を読んだ方の中から、「受けてみよう」という人が現れたら幸甚の至り。
- 研修生募集(とこなめ陶の森 陶芸研究所) ※2024度の募集は終了
- 研修生募集のパンフレット(2024年版)