2018年5月、雨。煎茶道 黄檗売茶流 鎌倉教室の稽古録。
新緑の宝庵
雨がポツポツと降り、緑の美しい宝庵。
露地は生い茂り、梅見門の屋根もいつにも増して苔が旺盛。
手水鉢には、名残のシャガ。
花の季節の移ろい、一花三季の「初花」「当季」「名残」。
食も同じく、「旬には走り・盛り・名残の3つがある」とは、野菜のプロフェッショナル・築地御厨の内田悟さんに伺ったお話。
新しい季節の到来で瑞々しい、「走り」(はしり)。
生命力に満ち満ちている、「盛り」(さかり)。
去りゆく季節をいとおしむ、「名残」(なごり)。
懐石料理でもよく耳にすることば。花と食。分野は違えど、根底に流れる思想は同じ。
淹茶 三ツ飾 一煎
今月のお手前は、「淹茶 三ツ飾 一煎」。小さいお茶碗(古式の茶碗)を六碗使う、玉露のお手前。
「三ツ飾」とは、「三器・涼炉&ボーフラ・水注」の三点が横一文字に並ぶ道具組を言う。正式な茶会では、箱や棚・器局などを用いるので、三ツ飾は稽古用の設え。
現お家元考案の平成手前ができる前は、このお手前が一番最初に習う平手前であったとか。
通常、玉露は「湯→茶葉」の順に茶の準備をするが、このお手前だけ「茶葉→湯」の順となっている。
お客様に煎茶碗五碗をお出しし、一碗は自分で頂く。
初めてこのお手前のお稽古をした時、自分でお茶を飲んでいいことに驚いたものだった。お手前をする人用の茶碗には、茶の水色を見るために最初に注いだ数滴と、最後に茶を切って淹れた数滴が注がれている。
五碗あるので、稽古中にお茶を頂く回数も自然と多くなり、お手前のたびに茶味の違いを味わうことができる。
雨と蛙
雨がパラパラ、サーっと降って、粒から線へ音が変化していく。五月雨には、早過ぎる気もする。
草と土の匂いが強まり、姿は見えねどもケコケココと蛙の大合唱。ポコポコと、あぶくのような音。
日暮れと共に雨脚が強まり、まるで滝の中でお手前しているかのよう。茶室の中に居ながらに、外に居るかのような感覚。
道具の通り道。無意識ではなく、無念無想。茶碗の糸底の拭き方。
お稽古も終盤には大雨となり、陸の孤島の風情。夜も八時を回ると、お茶室のから門までの道は暗く、そこかしこに水溜まりができている。次回から懐中電灯を持参しよう。
山蛙 けけらけけらと 夜が移る (臼田亜浪)