表参道の茶茶の間で開催されている、常滑焼の急須職人・二代目 吉川雪堂さんの個展に。
これだけの数の朱泥急須が一同に会すことは、なかなかない。許可を頂いて写真を撮影してきた。
常滑焼の朱泥急須
![常滑焼急須](https://sencha-note.com/wp-content/uploads/2018/10/8846426856169f4ce38901f2e1fb62aa-e1540653890166.jpg)
常滑焼というと朱泥急須のイメージが強いが、朱、黒、小豆色と様々な色の急須が。
すべて、同じ朱泥の土から作られているそう。鉄分を多く含むので、土の色が赤い。一度目の焼成で朱に、二度目で炭などで燻すと黒に。三度目で窯変が入り、緑、青、黄、金、銀、と多彩な色が生まれる。
窯変急須
![窯変急須](https://sencha-note.com/wp-content/uploads/2018/10/5f38075350fc525d5d06164a3a976478-3-e1540685041409.jpg)
こちらは、緑かかった窯変鏡面急須。黒・緑・茶と、なんとも表現しがたい複雑な色合いで、磨き上げられ、つやつやと表面が鏡のよう。金属のようにも見える。
後日再訪問した所、既に売り切れていた。窯変は狙って同じ色を出すことはできない、偶然の産物。気に入ったものがあれば、その時に購入しないと再び会えるとは限らない。
筋引急須
![筋引きの急須](https://sencha-note.com/wp-content/uploads/2018/10/db0103c875aa0489e105cb31b87955fb-e1540655059215.jpg)
こちらは、筋引の窯変銀彩急須。ろくろで一気呵成に作り上げた「筋引き」は、手の指の跡がそのまま残っている。勢いと熟練の技術が感じられる一品。
展示されていた急須は、大きく分けて、以下の2種類があった。その上で、色・窯変などにより、更にそれぞれの急須の個性が出ている。
- 磨きをかけた急須:表面がつるつるで光沢があり、鏡面のようになっている
- 筋引きの急須 :ろくろを引いた跡が、表面に残っている
筋引きの急須は、つややかな磨きの急須に対し、荒々しさとエネルギーを感じる。
![筋引急須](https://sencha-note.com/wp-content/uploads/2018/10/b803c4bf1d3e619a98a6959ca523f4a9.jpg)
黒の筋引急須。青木木米の写しでボーフラのような形だが、急須だからもちろん火にはかけられない。窯変がかかっておらず、マットな質感。育てがいのあるタイプの急須。
青木木米の急須は「畳の上に置いて使う」ことを前提にしているため、持ち手がかなり上向きについているとか。こちらの写しはそこまででもないが、東京国立博物館の木米作品を見返した所、かなり急こう配の持ち手の急須があった。
![黄釉荒磯浮文急須(青木木米 作)](https://sencha-note.com/wp-content/uploads/2018/10/7aa6951cceab59a51da422b49b2951ed-e1540696178835.jpg)
この持ち手の角度は、上からならば持ちやすいが、現代、机の上で使うには持ちづらい。生活の変化と共に、道具の使いやすさは変わり、その形も変わっていくもの。
平型急須
![窯変鏡面銀彩急須](https://sencha-note.com/wp-content/uploads/2018/10/68907e5f191cb17260a82a87f59fbbbd-e1540654193845.jpg)
こちらは、窯変鏡面仕上げで「茶ごころ急須」という平形の急須。
茶茶の間オリジナルで、製作を依頼した急須とか。お店でも利用しており、日本茶イベントなどでもよく見かけるようになった形。この形の急須はあまり一般的ではないものの、昔から作られていたそう。
背が低いので、茶葉の様子をとても見やすくなっている。失敗の少ない急須かもしれない。この急須は、光の当たり具合で金にも茶にも見え、玉虫色の不思議な色合いだった。
雪堂急須の特徴
蓋と胴体の一体感
![窯変急須](https://sencha-note.com/wp-content/uploads/2018/10/5f38075350fc525d5d06164a3a976478-e1540655249780.jpg)
蓋が滑らかに本体とつながっており、一体感がある。これには、高い技術が必要とされるという。
蓋もピシッとしまり、とても精巧な作り。熟練の腕を持つ職人だからこそ作ることができる美。
![印籠蓋](https://sencha-note.com/wp-content/uploads/2018/10/b121f27caf6a70d559e0fda4980699a7.jpg)
こちらを、蓋を開けた所。急須を傾けても蓋が落ちない「印籠蓋」(いんろうぶた)。煎茶のお道具では、水注でおなじみ深い蓋。
ちなみに、この急須のような丸い形状の持ち手は、たなごころに握りこんで持つとか。親指で蓋を押さえ、片手で扱うことができる。個人的には、女性の場合は左手を蓋に添えて、両手で淹れた方が美しいと思う。
急須の「あご」
![窯変急須](https://sencha-note.com/wp-content/uploads/2018/10/5f38075350fc525d5d06164a3a976478-1.jpg)
雪堂急須の特徴の1つが、注ぎ口の下につけられているそりの部分。
この部分を「あご」と呼ぶそう。絶妙な角度で水切りが良くなっている。実際に幾つか、試し注ぎをさせて頂いた所、美しい水の曲線に気持ちよい水切れ。注ぎ口に水が一滴も垂れることがない。
![急須の注ぎ口作り](https://sencha-note.com/wp-content/uploads/2018/10/9eb056ab82266a68001c136590c506d9.jpg)
あごを付けている所。微妙な力加減で、形を決めていく。職人さんの手は美しい。
急須の「へそ」
![急須の茶こし作り](https://sencha-note.com/wp-content/uploads/2018/10/84eb3842296a9e0fd6d71aa4aeeeb6e7-e1540656692460.jpg)
急須のへそとは、茶こしのこと。「ポンス」と呼ばれる金属の棒で、球状の土に1つ1つ、等間隔に穴を開けていく。
少なくとも、500個以上の穴を開けるとか。大変繊細な作業な上、土が乾く前に終わらせなければならないから、時間との戦いでもある。手間と技術の結晶。
![急須の茶こしとポンス](https://sencha-note.com/wp-content/uploads/2018/10/d8bde4f9d7bf1f0d3b06becf9b0b3ce0-e1540696540692.jpg)
急須の「あし」
![窯変急須](https://sencha-note.com/wp-content/uploads/2018/10/5f38075350fc525d5d06164a3a976478-2-e1540657846937.jpg)
面白かったのが、切り高台の付いている急須があったこと。写真の急須は胴体のフォルムと言い、まるでペンギンのように見える。ユーモラスな姿で、今にも歩き出しそうだ。
足の付いている急須は初めて見た。茶の味や急須としての用途には影響がなく、高台は飾りだが、切り込みを入れることで軽くしているそう。
![常滑焼急須の桐箱](https://sencha-note.com/wp-content/uploads/2018/10/6594713626a4e908c7b96f5a5f9baa83.jpg)
こちらは、急須を収納する桐箱(※通常購入ではついていない。別途注文)。
「常滑焼 朱泥茶注(雪堂 作)」と書かれている。急須ではなく、茶注(ちゃつぎ・ちゃちゅう)と書かれていることに、煎茶器の歴史を感じる。
用を極めた美
![雪堂急須展|朱泥の世界~急須の用と美](https://sencha-note.com/wp-content/uploads/2018/10/0687122213833f8034b58ad6cb4be504.jpg)
1つ1つの急須をじっくりと拝見し、「使い勝手を突き詰めると、最後には美しい形になる」という言葉を思い出した。常滑焼の名工にして人間国宝、三代目 山田常山のことば。
常滑の地にも足を運んだことはあるが、これだけの数の雪堂さん作の急須を見れるのは、今ここだけだそう(雪堂さんの工房よりも数があるとか)。散々迷い、財布と相談して1つ購入した。急須&お茶好きであれば、是非足を運ぶことをおすすめしたい。