第50回 月見茶会2025@黄檗山 萬福寺

10年ぶりに萬福寺でお手前を務めることになり、11月1日、第50回目の月見茶会へ。
前夜は遅くまで土砂降りでどうなるものかと心配したものの、夜が明けてみれば空はすっきりと晴れ渡り、カラリと快晴。ほっと胸をなでおろした。

目次

萬福寺門前の「駒蹄影園跡碑」へ

集合時間より早く黄檗駅に着いたので、少し寄り道を。萬福寺の門前にある「駒蹄影園址碑」(こまのあしかげえんあとひ)へ立ち寄る。

萬福寺の道路向かいの小さな公園に、石碑はひっそりと佇む。以前訪れた時は草が茂っていた印象があったのだが、今回は綺麗に整備されていた。

この石碑は宇治茶の始まりを今に伝え、栂尾高山寺の明恵上人の功績を讃える顕彰碑。

※茶園の駒蹄影園は現存していない。

鎌倉初期、宇治の人々が茶の種の蒔き方に悩んでいたとき、明恵上人が馬で畑に入り、蹄の跡に沿って種を蒔くよう教えた——その伝承に由来する。

駒蹄影園碑

鎌倉時代の初めごろ、宇治の里人たちが茶の種の蒔き方がわからず困っているところへ、通りかかった栂尾高山寺の明恵上人が馬を畑に乗り入れ、その蹄の跡に種を蒔くように教えたと伝えられています。

この碑は、明恵上人への感謝とその功績を顕彰するため、大正15年(1926)に宇治郡茶業組合により建立されたものです。

  栂山の 尾上の茶の木 分け植えて

         迹ぞ生うべし 駒の足影

                  明恵

※「駒蹄影園碑」解説板より

都賀山と書いて、栂山。碑は大正15年、宇治郡茶業組合により建立されたものだという。

黄檗山 萬福寺の境内

「第一義」を掲げる門をくぐり、龍の鱗を表す菱形の敷石を踏まぬよう、茶席の会場を目指す。

萬福寺と言えば開梛(魚板)。黒目がちで愛嬌のある表情。日々の時刻を伝えるためにお腹は少しへこんだか。

国宝「法堂」と卍崩しの欄干

今回、茶席が設けられたのは、昨年国宝に指定された「法堂」(はっとう)。法堂とは、僧が講義を行う建物のこと。浅草寺のような大きな提灯が吊り下がり、鮮やかな赤が遠くからでも目を引く。

黄檗売茶流で、玉露席と啜り茶席の二席が設けられ、北側の玉露席へ。立礼の手前座には、法堂の欄干と同じ「卍崩し」の文様が。梵字の「卍」(まんじ)が形を変え、連なっていく意匠。

玉露席@法堂

京焼に特徴的な「紫交趾」

今回お茶席の道具組は紫交趾でまとめられており、お客様からたびたび質問をいただいた。

「交趾」(こうち)は京焼の技法で、ガラス質の釉薬による鮮やかな発色と艶が特徴。中でも黄交趾をよく目にする。

文様がなくつるんとした無地の交趾もあるが、お茶席で用いた煎茶道具は、交趾といっちんの技法を組み合わせ、文様が浮き出て見えるもの。ケーキにデコレーションするように絞り出しで線を描き、釉薬で色を載せていく。説明があっていたか心配になり後で調べたのだが、間違いがなくてよかった。

「七宝焼のようですね」と感想をくださった方もいて、確かに質感には通じるものがある。七宝焼は金属、交趾は陶器という素地の違いはあるものの、どちらもガラス質の釉薬を焼きつけて色を出す点は共通している。

特製菓子「金紫満月」

菓子は、大阪池田の菓匠、「光楽堂 光國」特製の「金紫満月」(きんしまんげつ)。

見る角度によって満月にも三日月にも見える意匠で、闇夜には金箔がひと粒、星のようにきらりと光る。

お客様の健康を願い、栄養豊富な野菜パウダーを練り込み、月の表側は人参葉で淡い緑がかった黄色、裏側は赤紫蘇で紫がかった墨色に。菓子の色が紫交趾の道具と呼応し、席全体に統一感をもたらしていた。

お手前・童子・お運びと、9席があっという間に過ぎていった。茶席の合間、水屋で余ったお茶を1煎いただくと、染みいるように大層おいしかった。楽しい時間は過ぎるのが早い。

他の茶席がどんな様子だったのか、お客様で来ていた社中の方に写真を見せて頂いた所、なんと紅茶の席もあったらしい。煎茶道で紅茶のお手前。いつかぜひ拝見してみたいものだ。

夕方にはハラリと雨が降り、法堂には虹がかかっていたとのこと。そうとは露知らず、虹の中でお手前をした方や、お茶を飲んだお客様もいたのだから、稀有な体験をしたものだ。

日没後の幽玄の世界

日が暮れ、灯籠の明かりが灯されると、境内の雰囲気は一変し、幻想的な世界に。闇夜に浮かぶ赤灯籠。

十三夜の明るい月の下、パチパチと爆ぜる薪の音。巨大な木魚、異国情緒あふれる読経と鳴り物。管長猊下の儀式に続き、小笠原流による厳かな献茶式が執り行われた。

終了後は、あっという間に撤収が進む。法堂を出ると、欄干の卍崩しが砂庭にくっきりと影を落としていた。

そういえば、卍は古代サンスクリット語の「スワスティカ」に由来し、幸運や幸福・健康を意味するものだった。卍が連なる卍崩しは、幸福や幸運が続くよう願ったものなのかもしれない。茶席のテーマにもつながる気づきを最後に得て、帰路に着いた。

今回、50回の節目の記念にと、茶会参加者に小風呂敷が贈られた。五色あったそうなのだが、箱を開けてみた所、少し緑がかった黄色。偶然か茶席の菓子と同じ色で、月の欠片を頂いて帰った気分になったのだった。

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