お茶の木を育て、活用してみる試み。
煎茶だけでなく、茶の実からも何かできないか?そんな思いつきから、茶の実から油を作ることに挑戦してみた。今回は自動搾油機「オイルプレッソ」を使って茶油を抽出してみた。
まずは搾油機を導入
以前、手搾りで茶油を作ったことはあるが、マンパワーで油を搾ることに限界を感じた(油の貴重さを実感できる経験だった)。手間と労力をショートカットすべく、今回は機械の力を借りることに。
仕事から機械化への道のりは、まるで人類の油作りの歴史をなぞっているよう。
※前回のオールハンドによる茶油作りの記事はこちら。

家庭用搾油機の選定理由

いろいろと自動搾油機を調べて比較検討した結果、以下の理由から「オイルプレッソ」を購入。
- 椿の実で搾油実績があり、茶の実にも適用できそう
- これ1台買えば、油がとれる(1台で完結し、追加の道具や設備が不要)
実は最初、販売数も利用実績も多い「PITEBA」にしようと考えていたが、利用者の声を調べるうちに、大変さが分かり断念(「PITEBA」は手回しタイプで相当な重労働。また、机や台に固定する必要がある)。数万円安くなっていたこともあり、最終的に自動搾油機の「オイルプレッソ」に軍配が上がった。
「オイルプレッソ」の懸念点としては、令和4年にすでに国内販売が終了していること。ただ、輸入品としては流通しており、海外では異なる名称で販売されている。
茶の実から油を搾る方法(オイルプレッソ版)

必要な道具
- ペンチ :茶の実を割る
- すりこぎ&すり鉢 :茶の実を砕く(ミキサーがあればその方が楽)
- ガラス瓶 :搾った油を受けるための容器(事前に煮沸消毒済)
- フライパン :茶の実を炒る。ホットプレートなどでもOK
- コーヒーフィルター:ろ過用


実際の手順

茶油作りにあたり、農林漁村文化協会が出版している「油の絵本(つくってあそぼう)」がとても参考になった。茶油は載っていないが、椿油を始め、様々な木の実油や、ジャッキを使った自家製搾油機の作り方まで紹介されている。
この「つくってあそぼう」シリーズはこども向けなのだが、内容が本格的でわかりやすくて面白い。「茶の絵本」もおすすめ。
1.茶の実を割って取り出す
乾燥させた茶の実を、ペンチで1コ1コ割り、中身を取り出す。オールハンドでの搾油と同じく、ここは地道な作業。業務用の絞油機では殻ごと粉砕できるものもあるので、この作業は不要かもしれない。今回は手作業で。
重さを測った所、収穫量は66.3%。
- 収穫した茶の実の量:580.5g
- 取り出した実の量 :385.0g(約66.3%)
2.茶の実を砕く(5mm以下に)
オイルプレッソは5mm以上の原材料は使用できないため、すり鉢で茶の実を細かく砕く。
他の搾油機では「ミキサーで細かく砕くと、搾りカスがつまりやすい」というレビューがあり、最初はミキサーを使わずひたすら手で砕いていたが、実際に試してみた所、オイルプレッソはミキサーで砕いても問題なく使用することができた。

3.茶の実を炒る
強火で、10〜20分ほどフライパンで炒る。熱を加えることで油の抽出がスムーズになる。搾油の本では、120度と記載されていた。香ばしいよい匂いがする。
初回は加熱せずに搾って失敗…。熱を加えず絞油する「コールドプレス製法」もあるので、大丈夫と思ったのだが。オイルプレッソの取扱説明書に「材料は暖めて(約 80℃)で使用すると早く搾油できます」と記載があり、全くその通りだった。
最初にこの工程を忘れて加熱せずにオイルプレッソを利用した所、1滴たりとも油が取れず、軽い絶望を感じた。加熱は非常に重要。加熱によりタンパク質が固まり、油が出やすくなる。
4.オイルプレッソで油を搾る
早速搾油を開始。加熱した茶の実をオイルプレッソにセットし、スタートボタンをクリック。
しばらくすると、蛇玉花火のような茶殻が押し出され、ぽたぽたと油がしたたり始める。油が取れ始めるまで、少しタイムラグがあるため、最初は本当にとれるのか心配になるほどのスロースタート。


何度か試した所、茶の実が温かいうちに搾油した方が、油の採れ高が高い。こまめにフライパンで茶の実を炒って、オイルプレッソに実をつぎ足していく。たまに詰まった時は逆回転スイッチを押し、殻を取り除いて再スタート。頻繁に詰まるので、一向に進まない。詰まりを取っているうちに茶の実が冷めてしまうので、再度加熱し、エンドレス。
ちなみに、茶の実の絞りカスはにサポニンが含まれており、洗剤やシャンプーとして活用可能とのこと。
5.絞油が終わったら、すぐそうじする

搾油が終わったら、すぐにオイルプレッソを分解して掃除する。時間が経つと内部のカスが固まり、掃除が大変になる。熱くなっているので、ヤケドに注意。フタを開けてロックを外し、金属の部品を取り外す。掃除用品のブラシが付属しているので、中のカスを取り出す。
なお、実験として、2回目の絞油で1日経ってから掃除した所、中のカスが非常に固くなり、熱湯につけてふやかす必要があった。大変なのですぐの掃除がおすすめ。
6.茶油をろ過して完成

搾りたての茶油は、細かい茶殻などを含んでいて濁っているため、コーヒーフィルターでろ過する。
これで、黄金色のクリアな茶油が完成。
茶油には、オレイン酸(約80〜85%)やビタミンE、カテキンが含まれ、抗酸化作用が期待あるとか。ただ、今回作った茶油を味見した所、渋味が強く食用には不向きだったため、保湿オイルとして利用した。
絞油率と考察
実際に搾ってみると、自動搾油機を使っても、茶の実から採れる油の量はほんのわずか。市販されている茶油が高価なこともうなづける。そして、搾油は力技。
多大な労力を考えると、市販品を購入する方が現実的という結論に(当たり前だが)。参考までに、他の木の実について、オイルプレッソの取扱説明書に記載されている「材料ごとの絞油率」は以下の通り。絞油率は3割くらいが平均らしいが、茶油はもっと少ない。量を測るのを忘れてしまったが、1~2割ぐらい。
オイルプレッソの取扱説明書による搾油率(目安)
材料名 | 材料の含油率[%](重量比) | 絞油率(%) | 500ml絞油する場合の材料の量[g] |
---|---|---|---|
ピーナッツ | 40-45% | 36-42% | 約1300~1350g |
ゴマ | 45-50% | 37-43% | 約1250~1300g |
菜の花の種 | 30-35% | 23-30% | 約1750~1800g |
ヒマワリの種 | 45-50% | 40-46% | 約1150~1200g |
かぼちゃの種 | 39-44% | 35-40% | 約1300~1350g |
アーモンド | 30-35% | 25-30% | 約1750~1300g |
おわりに
茶の実から油を搾る─ほんの好奇心から始めた試みだが、実際にやってみることで、油を搾るための手間や工夫を実感することができた。普段何気なく使っていた油が、どれほどの時間と労力を経て生まれているのか。文字通り身を持って知ることで、油を大切に使おうという意識も自然と高まった。
気軽に茶油づくりを試してみたい方は、レンタル可能な小型搾油機「SHiBORO-mini」がいいかもしれない。
ちらりと調べた所、日本の製油発祥の地は、京都・大山崎町の「油祖 離宮八幡宮」だそう。800年代半ば頃、神官がテコの原理を利用した搾油機「長木」を発明し、灯り用の荏胡麻油を作っていたとのこと。境内には「本邦製油發祥地」という石碑も建てられている。
手搾りから機械搾りへと続く技術発展の歴史に思いを馳せつつ、油の希少さを身を持って知る実験だった。こうやって生活をよりよくするために、人は知恵を搾り、頭と手を動かしてきたのだなと。
目には見えない、手に宿る知恵というものもあるように思う。資本主義社会に暮らす身、日常は消費することや使うことが多い生活となっているため、自分の手でモノを作ることは楽しい。売るものではないから、効率や採算性も度外視できる。人によっては何が楽しいのかと突っ込まれそうだが、いわゆるコスパやタイパとは真逆の世界観。そして、いざとなれば「生活に必要な物を自分の手で作ることができる」という実感は生きる力を底上げしてくれそうだ。