茶畑ではあまり見られない光景だが、茶の木は、晩秋から冬にかけて花を咲かせる。自然のままの茶の木には、花がたくさん咲くので、冬の茶の木はとてもにぎやかだ。
冬の空気に漂う甘い香りと、うつむく小さな花

寒さがだんだんと深まる季節。そんな冬の始まりに茶の花は姿を現し、ふわりと甘い芳香を放つ。蜜を求めて、蜜蜂やハチドリに似た蜂雀(ホウジャク)や蜜蜂が花を訪れては、あちこち飛び交う。

茶花の蕾は、まんまるでなんとも可愛らしい。蕾の時分、花びらは少し緑がかった色をしている。

葉の下に隠れるように、茶花はうつむきがちに咲く。その謙虚な佇まいはどこか奥ゆかしい。
花びらは、開くとやわらかなクリーム色をしている。黄色い雄しべがたっぷりとついていて、重たげに下を向いて咲いている。雪が降り積もると、一層健気に見える。
なかには下を向かず、凛と顔を上げて咲く花もあり、花にもまるで性格の違いがあるのかのようだ。
やがて花は椿のようにポトリと落ち、その後ゆっくりと時間をかけて実を結んでいく。昨年の実と今年の花が、一本の木のなかで同居している様子も、また自然の妙。
茶の木にも、観賞用の品種がある
一般的には白い花を咲かせる茶の木だが、薄紅色の花や、葉に斑が入る珍しい園芸品種も存在する。
江戸時代には、こういった紅花や斑入りの葉の茶木が、観賞用として珍重されていたそうだ。樹形を楽しむものもあり、盆栽にも向いている。
紅花茶(ベニバナチャ)~薄紅色の花~
「紅花」と聞くと、山形の名産を思い浮かべてしまうが、こちらは茶の園芸品種で、薄紅色の花を咲かせる。
学名は「Camellia sinensis f. rosea」。バラ色の茶とは、華やかな命名だ。
なかなかお目にかかれない珍しい花だが、東京・小石川植物園のツバキ園で観賞することができる。ちなみに、同園では、大きな葉が特徴の唐茶(トウチャ Camellia sinensis f. macrophylla)も育てられている。
雲龍(ウンリュウ)~樹形が特徴~
その名のとおり、枝がうねり、天に昇る龍のように伸びていく姿が特徴の品種。
「雲竜」とも表記されるが、「雲龍」の文字のほうが、その姿に似つかわしいと思う。
天白(テンパク)~花の色が変わる大輪咲き~
白花が、次第に桃色へと変わっていく、観賞用の品種。
大輪咲きで、市場にはほとんど流通していない希少種だそうだ。咲き進むにつれて色が変わっていく姿に、季節の移ろいを感じることができる。花の色は移りにけりないたづらに。
天白錦(テンパクニシキ)
天白の変種で、葉に白い斑が入る品種。新芽には朱がさしていて、天白同様、花の色が白から桃色に変わる。
「黒竜錦(こくりゅうにしき)」という、黒い新芽をつける希少品種もあるのだとか。
茶の苗木が買える園芸店
こうした園芸品種の茶の木は珍しく、なかなか実際に出会える機会はないが、以下の園芸店では天白や雲龍やなどの茶の苗木を取り扱っている。また、盆栽店でも一部取り扱っているようだ。
冬に咲く茶の花は、飲むお茶とはまた違った魅力を秘めている。ひととき、花としての「茶」と向き合ってみるのも、豊かな季節の楽しみかもしれない。