黄檗宗のお寺は、入り口から入って法堂まで、まっすぐな道ではなく、一度角を曲がって進むようになっています。この建築様式の由来を、調べてみました。
邪気避けの防御壁「影壁」
「影壁」(えいへき)は、中国建築様式の特色である魔除けの壁です。中国語読みでは、yǐng bì(インピー)と呼び、門前の目隠しとして用いられます。
影壁のほか、「牆壁」「障壁」「屏風」「土屏風」「屏」などとも呼びます。その歴史は古く、古代中国の西周初期の時代、最古の実例が発掘されています(陝西省岐山県鳳雛の宗廟址)。
中国では「邪気(魔物)は直進する性質を持つ」と考えられており、道の突き当りにある家は「凶」と信じられています。そのため、邪気を避けるための対処として、玄関の前に塀や垣根を作ったり、鏡を置いたりして「邪気」を跳ね返します。影壁もその1つで、入り口から直進してくる邪気を阻むためのものです。
- 影壁(百度百科) ※中国語
影壁の種類
影壁は、中国の伝統建築「四合院」や寺院や貴族の邸宅によく見られ、門の内部に設置されます。以下のような種類があります。
- 一字形:衝立のような独立式の壁
- 八字形:一字形の両端を、内側に少し折った形の独立式の壁
- 看面墙:宅門の両側に設置された壁
- 撇山式:宅門の両側に設置された壁。内側に折れた形をしている。「燕翅式」とも
萬福寺の影壁
萬福寺の場合、三門から法堂まで一直線に並んでいますが、総門の位置は中央から左にずれています。
こうすることで、入り口の総門から進入した邪気は、まっすぐ進むと正面の白い塀(影壁)にあたり、その先には侵入できないというわけです。影壁に阻まれた邪気は、ただ立ち去るほかなく、「智恵有る者のみが山門に至る」とされています。
沖縄の影壁「ヒンプン」
ちなみに、沖縄にも「影壁」に当たるものがあります。「ヒンプン」(中国語の屏風に由来)と言い、玄関前の衝立として建てられます。
また、沖縄や鹿児島県でよく見かける「石敢當」(いしがんどう)も中国から伝わったもので、影壁と同じ役割のものです。魔物「マジムン」は直進する性質を持つため、丁字路や三叉路などの突き当たりや辻に「石敢當」を設置し、魔物の侵入を防ぐ魔除けとしています。魔物は、石敢當に当たると砕け散るとされます。
影壁と同じ役割を持つ「照壁」
影壁に似た役割りを持つものとして、「照壁」(しょうへき)があります。
中国語でzhào bì、「照牆」「照屏」「障壁」とも表記します。影壁が門をくぐった「内側」の目隠し壁であるのに対し、照壁を門の「外側」の目隠しの壁です。ただ、影壁・照壁は混同されているようで、中国でもそこまで明確な区別はないようです。
影壁同様に、門に付随している壁の他、衝立のように独立した壁があります。
瑠璃装飾の一字形照壁「九龍壁」
有名な照壁として「九龍壁」があります。
中国における吉祥の数「九」にちなんで九匹の龍を配し、五彩(黄・縁・朱・紫・藍)の琉璃瓦で装飾された影壁です(瑠璃照壁と呼びます)。中国には、以下の4つの九龍壁が現存しています。また、横浜中華街には、北海公園内を参考に、北京で製作した九龍壁があります。
- 故宮九龍壁(北京市・紫禁城、清代1392年) ※中国語wikipedia
- 北海九龍壁(北京市・北海公園、清代1756年) ※中国語wikipedia
- 大同九龍壁(大同市、明代1392年)
- 平遥九龍壁(山西省の平遥、明代早期) ※中国語
紫禁城・乾清門の「瑠璃照壁」
紫禁城には「故宮九龍壁」の他、「瑠璃照壁」という色鮮やかな照壁があります。
高さ8m、幅9.7mと大きなもので、乾清門の左右に設置されている照壁です。赤壁に、黄色と緑の文様で瑠璃装飾が施されています。
- 乾清门(北京故宮博物院)※中国語
※中国の紫禁城のサイトでは、「瑠璃影壁」と記載されています。