寒くなってくると、暖かいお茶が美味しい。
煎茶道では、冬の手前はすすり茶。急須を使わず、茶碗に茶葉と湯をそのまま頂くお手前。茶を飲むのも淹れるのも茶碗1つなので、家でも気軽に茶を楽しめるのが魅力。
茶碗1つで茶を淹れる
蓋付の茶碗の隙間から、すするようにして飲むことからその名が付いた、「すすり茶」。
中国では、清代(1636~1912年)に、皇帝や貴族の間でこの飲み方が流行ったという。台湾の故宮博物院には、清代の玉で作られた贅沢な蓋碗が収蔵されている。その後、一般庶民にも広まっていったとか。
すすり茶の茶葉
黄檗売茶流の煎茶道のお手前に習って、煎茶と玉露をブレンド。
煎茶道の流派によっては、煎茶のみだったり、産地の違う茶をブレンドしたりするようだ。お茶屋さんなど、一般的には玉露を使うことが多い(八女では「しずく茶」と呼んでいる)。
茶碗に茶葉をいれ、湯を注ぐ。
水の音は澄んで高く、お湯は少し低い水音になる。昔は全く気付かなかったが、ある時、お手前中に水音の高低が聞き分けられるようになった。これも稽古の効果だろうか。
湯を注いだばかりの茶葉。鮮やかな緑色に変化している。茶葉の変化を見るのも楽しい。
蓋をして蒸らして、待つことしばし。
蓋を開けて中をのぞいてみると、だいぶ茶葉が水を吸ってふくらんでいる。よい香りが立ち昇る。
飲むときは、蓋で少しずらし茶葉を押さえながら、茶碗を傾けて茶を頂く。温度変化と共に味が変わっていき、最後は濃厚な茶のしずくが。
フタのさかずき
最後は、蓋を盃にして茶を絞りきる。水分をたっぷり吸っているので、茶葉は落ちてこない。
この茶碗はフタのつまみがちょうど高台のようで、綺麗なさかずきの形だ。
湯を足して二煎、三煎と美味しく頂く。お茶会や稽古ではできないが、茶ガラはポン酢をかけて食す。カツオブシと醤油でも美味しい。茶を余すことなく頂けるのも、すすり茶のよい所。
すすり茶碗について
ちなみにこちらは中国の蓋碗。すすり茶碗の歴史は、調べてもどうも詳しいことがよく分からない。
中国茶関連の本を見ていると、「中国の蓋碗が日本に伝わったもの」と書かれているが、時期などは判然としない。中国ですすり茶の飲み方が一般に広まったのは清代以降というから、江戸~明治時代くらいに日本に伝わったのかもしれない。
江戸時代のすすり茶碗
仮説に基づいて色々と調べていた所、江戸時代の煎茶書「石山齋茶具圖譜」(田能村竹田 著、天保2年)に蓋碗を見つけることができた。
「茶碗」として、蓋碗の絵が描かれている(左上)。少なくとも、江戸時代には日本に蓋碗(のちのすすり茶碗)が存在したことが分かる。
宝瓶のルーツ説
ちなみに、蓋碗は、煎茶道具の宝瓶(泡瓶)のルーツなのではないか、という指摘もある。
泡瓶
茶瓶・急須の一種だが、取手がなく、また注ぎ口が別についていないものを本来のものとする。中国では、蓋付の茶碗を茶瓶代わりに使用することがあるが、あるいはそれにヒントを得て考え出されたものかもしれない。
煎茶器の基礎知識(小川後楽、1986年)
中国で蓋碗を「急須のように茶を淹れる道具」としても使うことを考えると、この説も有り得る気がする。また機会を見つけて調べてみたい。