新茶の季節になると、茶屋の店先に「新茶入荷」を知らせるのぼり旗がはためく。
そして「一番茶」と書かれた茶を見かけて、ふと思う。新茶と一番茶は、いったい何が違うのだろうか。二番茶、三番茶と続く呼び名もあるが、これらは単に摘む順番を指しているだけなのか。それとも味や品質に、はっきりとした違いがあるのか。
調べてみると、呼び名の裏には、茶の木がめぐる一年と、初物を尊ぶ日本人の心が隠れていた。
「新茶」と「一番茶」は、じつはほぼ同じもの

まず結論から書いておきたい。「新茶」と「一番茶」は基本的に同じお茶を指す。呼び方が違うだけである。
伊藤園が運営する「お茶百科」によれば、一番茶も新茶も「その年の最初に生育した新芽を摘み採ってつくったお茶」と定義されている。つまり両者は同じ茶葉から生まれた、同じお茶なのだ。
では、なぜ呼び分けるのか。
「一番茶」は、あとに摘まれる「二番茶」「三番茶」と対比するときに使われる呼び名だ。摘み取る順番に着目した、いわば製茶側の言葉である。
一方の「新茶」は、その年に初めて摘まれた「初物(はつもの)」であることを強調した呼び名で、「初摘み」と呼ばれることもある。旬の茶を待ちわびる、売り手・飲み手側の呼び名と言ってもいいかもしれない。
同じ茶葉でも、どの角度から見るかで呼び名が変わるというわけだ。
新茶ではない一番茶もある

もっとも「一番茶=新茶」がすべての場合に当てはまるわけではない。
たとえば、抹茶の原料となる「碾茶」も、摘む時期としては一番茶にあたる。ところが摘み取った後、数か月ほど低温で熟成させてから加工するため、店頭に並ぶのは10〜11月頃のことが多いという。
この時期に出荷される抹茶は「蔵出し茶」「封切り茶」などと呼ばれ、「新茶」の名で売られることはない。摘む順番でいえば紛れもなく一番茶でありながら、初物として世に出るタイミングを外れてしまったお茶、というわけだ。
とはいえ、私たちが日常口にする煎茶にかぎっていえば、一番茶のほとんどはそのまま新茶として店先に並ぶ。
「新茶=一番茶」という理解は、大枠としてはやはり間違っていない。
一番茶・二番茶・三番茶。摘む時期による呼び分け
茶の木は、春から秋にかけて何度か新芽を伸ばす。
その芽を摘む時期の順に、一番茶、二番茶、三番茶と呼び分けていく。一郎(太郎)・二郎(次郎)・三郎と、生まれ順序を表す輩行名(はいこうめい)のように。
日本茶専門店の情報などをもとに整理すると、それぞれの茶期摘採時期はおおむね次のようになっている。なお、茶の摘採の時期を「茶期(ちゃき)」と呼ぶ。
- 一番茶(新茶):4月下旬〜5月下旬
- 二番茶 :6月中旬〜7月上旬
- 三番茶 :7月下旬〜8月上旬
ただし、これはあくまで目安である。新茶の摘み取りは、温暖な鹿児島などから始まり、桜前線と同じように少しずつ北上していく。産地や標高、その年の気候によって、時期は前後する。温暖化の影響も大きいだろう。
三番茶を摘んだあと、秋まで茶葉を育ててから収穫する茶は、「秋冬番茶(しゅうとうばんちゃ)」と呼ばれる。地域によっては三番茶を摘まず、秋冬番茶だけを収穫する産地もある。
一方、南北に長い産地を持ち、機械化が進む鹿児島県では、三番茶だけでなく四番茶、さらに産地によっては秋冬番茶まで続けて摘採されることも珍しくない。近年は需要の変化もあり、2025年には一番茶の取引価格を上回ったというニュースも話題になった。

一本の茶の木から、季節をめぐって幾度も茶が生まれる。そのめぐりを、人は指折り数えてきた。
なぜ一番茶は甘く、二番茶以降は渋いのか

呼び名の違いは、そのまま味の違いにもつながっている。
一般に、一番茶は旨みと甘みが豊かで、二番茶・三番茶と後になるほど渋みや苦みが増すとされる。同じ木から摘んだ葉なのに、なぜこれほど味が変わるのか。
鍵を握るのは、「テアニン」と「カテキン」という二つの成分だ。
テアニンは、茶の甘みや旨みのもとになるアミノ酸である。対してカテキンは、渋みや苦みのもとになる成分だ。この二つの量のバランスが、味を大きく左右する。
実際にどれくらいの差があるのか、数値で見てみたい。
一番茶~三番茶で、テアニン・タンニンの含有量はどう違うのか
静岡県内の代表的な20地区で栽培された一番茶・二番茶・三番茶を分析した研究によれば、テアニンと、カテキン類を含む渋み成分「タンニン」の含有量は次のようになっている。
| 成分 | 一番茶 | 二番茶 | 三番茶 |
|---|---|---|---|
| テアニン | 0.51〜1.68% (平均1.07%) | 0.13〜1.27% (平均0.46%) 一番茶比 – 57%減 | 0.18〜0.85% (平均0.34%) 一番茶比 – 68%減 |
| タンニン(カテキン類) | 10.1〜14.2% (平均11.5%) | 12.1〜18.9% (平均14.1%) 一番茶比+23%増 | 10.8〜17.2% (平均13.2%) 一番茶比+ 15%増 |
※出典:静岡茶のテアニンおよびグルタミン酸含有量について(茶業研究報告 第19号、1962年、前田清一・佐々木裕・鎌田光雄・賀陽武子・赤堀博)
一番茶から二番茶になるだけで、テアニンはおよそ半分以下に減り、反対にタンニンは2割以上増える。三番茶になると、テアニンは一番茶の3分の1程度にまで減ってしまう。数字にしてみると、その変化の大きさがよくわかる。
なお、カフェインについても変化があるのか気になったが、この研究では調査対象になっておらず、茶期別のカフェイン含有量は確認できてなかった。
一番茶は、冬の間に蓄えた栄養をたっぷり含む
一番茶の茶葉は、厳しい冬を越えた茶の木が、最初に芽吹かせた新芽から作られる。
木は寒い季節のあいだ、根にじっくりと養分を蓄えている。その蓄えをたっぷりと含んで芽吹くのが一番茶だ。加えて、一番茶が育つ春先は気温がまだ低く、新芽の生育速度もゆるやかである。
静岡県の茶業研究機関の知見を紹介する記事によれば、新芽は気温10〜25℃のあいだでは気温が高いほど生育が進む一方、昼夜の気温差が大きく夜間の気温が低いほど、アミノ酸が蓄積しやすいのだという。冬に蓄えた養分に加え、こうしたゆるやかで気温差のある育ち方も、一番茶にテアニンが豊富に含まれる理由と考えられている。
二番茶、三番茶と摘み取りが進むにつれ、一度に伸びる新芽の生育期間は短くなり、気温も上がっていく。木が蓄える養分も一番茶ほどではなくなり、テアニンは少なくなっていくと考えられている。
なお、こうして冬の養分を蓄えて芽吹いた一番茶の若芽(わかめ)には、うぶ毛のような白い産毛をまとっていることが多い。この産毛を「毛茸(もうじ)」と呼ぶ。毛茸が多く見られるのは若く柔らかな新芽の特徴であり、高品質な茶葉に見られることが多い。

日光を浴びるほど、テアニンはカテキンへと変わっていく
もう一つ、見逃せない理由がある。
京都府茶業研究所の解説(京都府ホームページ)によれば、テアニンは茶の根で合成されて葉に蓄えられ、日光を浴びて葉が光合成を行うと分解が進み、生じたエチルアミンがカテキンへと変化していくのだという。テアニンがそのままカテキンに置き換わるのではなく、いくつかの過程を経て変化していく、ということになる。この変化は温度にも左右され、気温が低いほど抑えられるそうだ。
一番茶が育つのは、まだ日差しのやわらかい春先である。日照時間も比較的短く、気温も低い。そのためテアニンの分解が進みにくく、多くの旨みが茶葉に残る。
ところが二番茶・三番茶が育つのは、初夏から真夏にかけての、日差しの強い季節だ。長く強い日光を浴び、気温も高くなるほど、テアニンの分解とカテキンへの変化が進んでいく。その結果、後の茶ほど渋みや苦みが際立つというわけだ。
ちなみに、玉露や抹茶が旨みに満ちているのも、同じ理屈で説明できる。これらの茶は、摘み取り前に茶園を覆って日光をさえぎる「被覆栽培(ひふくさいばい)」で育てられる。日光を断つことでテアニンの分解が抑えられ、旨みがそのまま残るのだそうだ。
おわりに
新茶と一番茶は、同じお茶の別の呼び名だった。
一方は摘む順番を、もう一方は初物であることを言い表している。そして二番茶、三番茶と季節が進むにつれ、日差しとともに味わいは移ろっていく。
初物は、強い生命力が宿る縁起物。そして、この時期にしか飲めないという特別感もある。待ちわびて、今を味わう。今年も無事にこの季節がやってきた、と実感できる味なのかもしれない。
個人的には、新茶はすぐ飲まずにしばらく置いておく方が好きだが(香りもいいが味を楽しみたい)、この一杯には、冬を越えた木の蓄えと、やわらかな春の日差しと香りが込められている。
桜を見て春の訪れを感じるように。新茶を淹れるときには、初夏の訪れを感じながら一煎いただきたい。
