お茶を淹れると、白い産毛がふわりと浮かんでいることがある。
「ほこり?」と勘違いされることもあるが、これは「毛茸(もうじ)」といい、高級な煎茶や新茶に多く見られるもので、良質な茶の証。
「毛茸」(もうじ)とは?

まだ葉が開かない新芽は、綿毛のような白くふわふわとした毛茸で覆われている。
「毛茸」(もうじ)は、茶の新芽に生えている白く細かな産毛のこと。「もうじょう」とも。お茶の世界では「もうじ」が一般的だが、植物学の世界では「もうじょう」と読むようだ(茸は「じ」とも「じょう」とも読む)。ここでは「もうじ」を採用して紹介する。
毛茸は、茶葉の若さの証
毛茸は新芽・一葉・二葉に多く、三~四葉目になるとほとんど見られなくなる。そのため、春に収穫される一番茶(新茶)、特に新芽の時期に収穫した高級茶は毛茸が豊富だ。
茶葉は成長するにつれ、毛茸がなくなっていき、大人の茶葉にはほとんど見られない。長子から第二子まで、それもごくごく限られた時期にだけ現れる、大層貴重なもの。

なお、茶に限らず植物には産毛が生えており、専門用語でこれを「トライコーム」(trichome。毛状突起)と呼ぶそうだ。例えば、枇杷の葉の裏を見てみると、びっしり産毛が生えているのが分かる。
毛茸の特徴と役割

若く柔らかい新芽を守る
毛茸は、若くやわらかな新芽を守る役割を担っている。主に葉の裏側に生え、強い日差しや乾燥(水分の蒸発)、害虫などから新芽を保護する。白く柔らかな見た目とは裏腹に、茶が自らを守るための鎧のような存在。
茶葉が成長して硬く丈夫になると、毛茸は消えていく。ほんのわずかな期間にしか見られない、儚く貴重な衣だが、茶を味わい豊かにしてくれるもの。成長とともに役目を終える毛茸は、まるで赤ちゃんの産着のようだ。
うまみ・甘みが強く、高品質な茶の証
茶を淹れると、湯の表面にキラキラと産毛が浮かぶ。
新芽にはアミノ酸が豊富に含まれており、うまみや甘みが強くなる。毛茸の多い茶葉は、新芽の割合が高い。特に高級茶や新茶は、新芽を厳選して使用するため毛茸を多く含み、まろやかな味わいとなる。
茶の品種による毛茸の違い
茶業研究報告書「茶遺伝資源における新葉毛茸特性の変異」(※)によると、毛茸の生え方は茶の品種によって異なる。
- 日本在来種:長毛(99%)・全面分布(98%)・高密度で毛量が多い
- 導入中国種:長毛(86%)・全面分布(87%)・高密度で毛量が多い。日本とよく似ているが、一部違う種類あり
- アッサム種 :短毛(44%)・毛量が少ない・低~中密度・内側のみ分布(53.7%)
この報告書によれば、日本在来種の茶は、ほとんどが「毛が長く、葉の裏面にびっしり生えている」タイプ。中国本土の茶も日本在来種と似ているが、インド・ダージリン由来の茶はアッサム種に近い(短毛・低密度または内側半分にだけ分布)。
一方、インドのアッサム種は、日本や中国本土の茶と大きく異なり、毛が短く、量も少ない傾向がある。特に台湾の「タイワンヤマチャ」は、毛がほとんど見られないという突出した特徴がある。
※茶遺伝資源における新葉毛茸特性の変異(農林水産省野菜 ・茶業試験場久留米支場・武田善行・和田光正・根角 厚 司 ・武弓利雄、平成5年4月30日)
毛茸が多いお茶の種類

様々なお茶に毛茸は見られるが、新芽や若い芽を使う高級茶に多く、品種としては特に日本と中国本土の茶に多い。
日本茶
- 新茶や高級煎茶 :芽を多く使用するため、毛茸が豊富
- ほうじ茶・番茶 :成長した葉を使うため、毛茸はほとんど見られない
また、広島大学の研究によると「日光を遮ると毛茸が減る」ことが分かっている。そのため、覆いかけて遮光して育てる玉露やかぶせ茶では、毛茸の有無や量が茶の品質を表すとは一概に言えない。
- 【研究成果】遮光による茶葉表皮細胞への影響〜お茶の品質向上へ期待〜(広島大学、2024年03月22日)
中国茶

- 白茶「白毫銀針」(はくごうぎんしん):白銀の産毛をまとった新芽が特徴
- 白茶「白牡丹」(はくぼたん) :白い産毛を牡丹に見立てた茶銘
- 緑茶「黄山毛峰」(こうざんもうほう):毛峰(毛のある峰)という名の通り、新芽に豊富な毛茸がついている
- 緑茶「信陽毛尖」(しんようもうせん):細い茶葉が白い産毛で覆われている
- 緑茶「碧螺春」(へきらしゅん) :新芽を使用しており、白い産毛が豊富
- 黄茶「蒙頂黄芽」(もうちょうこうが ):芽のみを使用し、毛茸が多い
- 紅茶「金駿眉」(きんしゅんび) :ゴールデンチップと呼ばれる黄金色の産毛が特徴
白茶は特に毛茸が多く、緑茶でも高級品ほど毛茸が目立つ。また、紅茶では発酵によって毛茸が黄金色になる。
ちなみに、贅沢にも「一芯一葉」で自家製の釜炒り緑茶を作ったみたところ、毛茸が非常に多かったので、米糀のような塊になってしまった。毛茸が取れないように製茶するのは難しい。
