世界各国の茶の呼び方は、CHA(チャ)とTEA(ティー)の二系統にほぼ分類できます。しかし、実は例外の国や民族も存在します。ここでは、チャ・ティー系統以外の呼び方で、茶を呼ぶ国・民族を紹介します。
東南アジア
モン族・苗族(ミャオ族)
中国南部・ベトナム・ラオス・タイなどに住むモン族(=苗族)の言葉では、茶は「tsua」「ta」と言うそうです。「ツア」「タ」と発音し、CHAの語源という説もあります(橋本実「茶樹の起源」より)
地域によって方言の違いがあるようで、モン語 (Hmong)の翻訳では「Tshuaj yej」と訳されます。ミャオ語の茶歌を聞くと、どうやら「ツァー ヤー」と読むようです。
- 茶樹の起源(『茶の文化 その総合的研究』第1部所収、橋本実、淡交社、1981年)
- 日本語教育と文化の問題―ことばの背景―(早稲田大学語学教育研究所、斉藤 修一 、1984年)
徳昂族(ドアン族)・崩竜族(パラウン族)
茶の原産地の可能性が高い「雲貴高原」は、中国の少数民族の居住地域です。
中国の雲南省からミャンマーのシャン州にかけて住む「徳昂族」は茶の木を祖先とし、古いお茶を耕作する農民「古老茶農」と言われる民族で、茶を「ミアン」「ミヤン」と呼びます。
徳昂族はトーアン族・ドアン族などと呼び、1985年にパラウン族(崩竜族)から徳昂族に改称しました。タイの山岳民族「ダルアン族」(別名パローン族・ベンロン族)も、徳昂族と同じ民族です。
ビルマ族(ミャンマー)
ミャンマーでは、茶は「ラペ」(Lahpet、Lepet)と言います。
「片方の手」 を意味するレぺから、茶を「ラペ 」(「レペ」とも)と呼ぶようにな ったと言われています。 また、近隣に住むアイニ族は、茶のことを「ラー」と呼ぶそうです。
ミャンマーの茶の起源の伝説によれば、ラべの語源は「片手で茶を受け取った(または授けた)」ことに由来します。12世紀、パガン王朝の名君・アラウンシツ王が、「パラウン族に茶種を与えたことが茶栽培の始まり」とされています。パラウン族が住むシャン州のナムサンは、ミャンマー最大の茶の栽培地です。
- 東南アジアの茶(志村喬、1963年)
- ミャンマーにおける茶の起源伝承と「食べるお茶・ラペソー」について(中村羊一郎 1995年)
ヨーロッパ
ポーランド・ベラルーシ・リトアニア
ポーランド・ベラルーシ・リトアニアでは、茶はチャともティーとも全く異なる発音です。
- ポーランド語:herbata(ヘルバタ)
- ベラルーシ語:гарбата(ハルバタ)
- リトアニア語:arbata (アルバタ)
これらの言葉の語源は、ラテン語の「herba thea」(ヘルバ テア)です。
herbaは「草」(ハーブの語源)、theaは「茶」を意味する言葉。「茶の草」から草の部分が独立し、お茶の意味になったというわけです。茶を意味するthea(テア)から、これらの言葉は「tea系統」に入れることができるのでないかと思います。
北アメリカ
オジブワ族
北アメリカ大陸の先住民族「オジブワ族」(Ojibwa)が話すオジブウェー語では、茶は「aniibiishaaboo」(アニービーシャーブー)と言います。
「葉」を意味する「aniibiish」と、「液体」を表す「aaboow」から構成されている言葉です。「アニービーシャーブー」とはどんな飲み物なのか、動画があったのでご紹介します。
映像を見ると、杉や松の葉などを直接水に浸し、湯を沸かした飲み物のようです。
オジブワ族が飲んでいる茶の原料を調べてみた所、茶の葉は入っておらず、「茶外の茶」でした。そのため、茶の伝播ルートとは関連のない、現地独自の飲み物と言えるでしょう。
- オジブワティー:ゴボウ根、ヒメスイバの葉、ニレの樹皮、トルコダイオウの根など
ミアン系統の言葉
中国の少数民族やミャンマーの言葉から、CHA・TEA以外にも、茶の言葉の系統がありました。ラ系統は語源の由来が分かっていますから、ここでは省略しますが、ミアン系統の茶は飲み物ではなく、食べ物としての茶です。
- ラ系統 :ミャンマー(ビルマ語、アイニ族)
- ミアン系統:ミャンマー(パラウン族、シャン族)、中国(徳昂族、布朗族)、タイ北部、ラオス
※国によって民族の呼び名が異なるため、分かりにくいのですが、「徳昂族 (Deang)=崩竜(パラウン)族=パローン族=ダルアン族」と同じ民族です。また「傣族=シャン族」です。
漬物茶の「ミエン」
タイ北部やラオスには、茶葉の漬物「ミエン」(miang。ミアンとも)があります。 ミャンマーの「ラペソー」、中国雲南省の布朗族(プーラン族)の「竹筒酸茶」も同様の発酵茶で、どちらも現地語では「ミヤン」と呼ばれています。
- タイ北部(ダルアン族、パローン族・ベンロン族)
- ラオス北部
- ミャンマー東部(パラウン族、シャン族)
- 中国雲南省西南部(徳昂族、布朗族)
元々同じ民族なのか、文化が伝播したのか分かりませんが、中国雲南省から東南アジアにかけて、茶葉を発酵させて食べる文化が存在しています。
- 中国 ・雲南省西南部の無塩漬物茶 「酸茶」(難波敦子/宮川金二郎/大森正司/加藤みゆき/田村朝子/斎藤ひろみ 1998年)
- 飲む茶・食べる茶(大森正司、1998年)
漢字「茗」の語源説
茶という漢字以前、「茶」を表す言葉には「茗」(メイ)・「荼」(ト)なども使われていました。
ミアンは漢字の「茗」の語源という説もあり、少数民族の言葉に、漢民族の漢字を当てた可能性があります。古い言葉であると推察されます。
- 「茶」の文字の変遷と確立(All About 中国茶/中国茶の基礎知識)
まとめ
茶の原産地を居住地域とする少数民族の間では、茶は食べ物のmiangでした。
その後、中国を原産地とし、飲み物のcha&teaとして、世界に茶が広まりました。今後、少数民族の研究が進めば、新たな事実が分かるかもしれません。