茶の木を育て、家庭で茶を作る試み。釜炒り緑茶と包種茶の製茶記録 

手作り包種茶

茶の苗木を植えて育てる所から、お茶を作ってみようという、ひょんな思いつきで始めた足掛け数年の試み。

実家の庭の一角に、茶の苗木を植えてから数年が経った。

広い茶畑があるわけでも、専門の道具があるわけでもない。「茶木を元気に育てるため、苗を植えてから3〜4年は茶摘みをしないこと」という注意に従い、ひたすら木を育て、ようやく茶作りに踏み出した。自分で育てた茶の葉でお茶を作れるものかどうか、試してみたくなったのだ。これは素人の、足掛け数年にわたる記録である。


目次

茶作りで参考にした情報

素人が茶を作るにあたって、まずは家庭でも作れる方法をあれこれ調べてみた。

茶農家直伝の煎茶・紅茶の作り方

そのなかで特にわかりやすかったのが、こちらの茶農家の方による手作り茶の解説記事だ。

埼玉県狭山市の老舗茶園「横田園」(6代目・横田貴弘さん)が、自宅でできる手作り煎茶・紅茶の作り方を解説した記事だ。工程ごとに写真があり、手順もとても分かりやすい。ここに感謝を述べたい。

茶の絵本(農山漁村文化協会)

もうひとつ、農山漁村文化協会が出している「茶の絵本」(編集:増澤 武雄、イラスト:山福 朱実 )もたいへん参考になった。

子ども向けと侮ることなかれ。蒸し製緑茶、釜炒り緑茶、さらに包種茶・紅茶の作り方まで、専門的かつわかりやすく解説されている。同シリーズには「油の本」もあり、茶油を作るときにも大変参考になった。シリーズ全部そろえたくなるほど充実した内容だ。

1年目。一芯二葉の「釜炒り緑茶」に挑戦

お茶の新芽。一芯二葉

新緑が美しく、風光る5月某日。一芯二葉(先端の芽と、そのすぐ下の2枚の葉)で茶摘みをした。

茶葉が若く、とても小さくて雀の舌のよう。もう少し茶葉が育ってから摘んでも良かったかもしれない。あとで調べた所、「葉が4~5枚開いたら茶摘み」ということだが、3枚目が開くか開かないか、赤ん坊のような状態で茶を摘んでしまった。

茶摘み

早速茶作りを開始した。今回は、なかなか手に入らない釜炒り緑茶を作ることにした。

手順は、大きく「炒る(殺青)→揉む(揉捻)→仕上げ(乾燥)」という3工程でできあがる。

以前、中国の杭州で「龍井茶(ろんじんちゃ)」の製造を見学したことがある。職人は中華鍋のような半円状の大釜を使い、素手で茶葉を炒っていた。熱くないのだろうか。今回はその工程を頭に描きながら作業したが、鉄のフライパンは油が付いているため使えない。ホットプレートで代用することにした。

1.茶葉を炒る(殺青)

釜炒り煎茶作りの工程。茶葉を炒る

菜箸で炒ると、しばらくして葉から水分も飛び、しんなりとしてきた。

さらに炒ること、しばらく。茶葉の色は次第に見慣れた緑へと変わっていった。生葉から飲む茶葉へ。

2.茶葉を揉む(揉捻)

釜炒り煎茶作り。手揉みの工程

そして、茶葉を手揉みすること、しばし。

かぐわしい芳香が漂いはじめた。これだけでもお茶作りに挑戦してみてよかったと思えた。

茶葉がまとっているこの白いものは、新芽ならではの産毛、「毛茸(もうじ)」だ。中国では「白毛」ともいう。

3.仕上げ(乾燥)

まだ最終工程が残っている。ホットプレートの上に和紙を敷き、乾燥させて完成。

ところが、なぜか白いお米のようなものが生まれてしまった。玄米茶ならぬ白米茶のような見た目だ。

釜炒り煎茶。毛茸の量が多く、小さな繭のようになってしまった
毛茸の量が多く、手揉みで小さな繭のようになってしまった

大量の毛茸が手揉みによって茶葉からはがれ、小さな繭のような状態になってしまったようだ。毛茸はよい茶の証ではあるのだが、こんなお茶は未だかつて見たことがない。

「揉捻しない作り方にすればよかったのか。茶摘みのタイミングが早すぎた?いずれにしろ失敗か…」

と思いきや、お茶を淹れ、いざ飲んでみると中国の白茶に近い、淡くほんのり甘い味がした。見た目はどうかという代物だったが、自分で淹れて飲む分には気にならない。素人でも、なんとかなるものだ。茶殻もポン酢でいただいて、余す所なし。

自家製の釜炒り煎茶。水面に浮いているのは「毛茸」
自家製の釜炒り煎茶。水面に浮いているのは「毛茸」

これほどまでに手間のかかるものを、日々当たり前のように飲んでいたのかと、改めて実感した。これからお茶を飲む時は、一層ありがたく頂くことができそう。

2年目。病のために断念

茶の花と実

翌年は、残念ながら病のために茶作りができなかった。

あまり世話らしい世話もできなかったので、チャドクガでも発生したらどうしようと危惧していたが、何事もなく茶木は庭で育ち続けた。毎年花は咲き、実がなる。

そんな植物の姿を眺めていると、努力が実を結ぶとはこういうことかと思えてくる。幸田露伴は「努力論」の中で、「幸福三説」を提唱した。植物は自らの生を全うするなかで、自然にこの三説を体現しているかのようだ。

  • 惜福(せきふく) : すでに自分が持っている福を大切にすること(今ある福を惜しむ)
  • 分福(ぶんぷく) : 自分が持っている福を、他人におすそ分けすること(福を分かち合う)
  • 植福(しょくふく): 未来に役立つことをすること(福を植える)

そうして茶木は、病床の私をよそに茶摘みの時期を過ぎ、静かに成長し続けた。

茶の花にホウジャク来たる

茶の花は、花の少ない秋から初冬に咲くので、蜜を求めて蜂もやってくる。

たまに雀が茶の枝に止まり、休んでいたりする。微笑ましい光景だ。

いつの日だったか。ハチドリのような虫が来ていた。なんだろうと思って調べたら、ホウジャク(蜂雀)というスズメガだった。茶の花に止まっている姿は捉えられなかったが、こんな姿をしている。素早く飛び回り、花の蜜を吸う時は器用に空中停止するように飛び続ける。


3年目。台湾風の「包種茶」に挑戦

茶の葉

3年目の茶摘みは、日差しがジリジリと暑い季節になっていた。

地球温暖化の影響か、かつての「茶摘みの時期」とは少し感覚が変わってきているように感じた。

今年は100日を目安に茶摘み

茶の葉

1年目の反省を踏まえ、今年は茶摘みのタイミングを遅らせた。

通常、茶は「八十八夜に摘む」という習わしがあるが、1年目に八十八夜で摘んだ際は新芽が若すぎて小さすぎた。そこで今年は百日(ひゃくにち)を目安にした。

ちなみに、宮城県石巻市(旧桃生町)の「桃生茶」(ものうちゃ)は、百八夜に茶摘みを行うことから「百八茶」とも呼ばれているそうだ。108歳は茶寿。茶という漢字が草冠(二十)と八十八に分解できることからそう呼ばれる。茶摘みの日が茶寿と重なるとは、縁起物としてこの上ない。

2026年7月現在、石巻市では桃生茶を次世代につなぐ地域おこし協力隊も募集している。

包種茶作りに挑戦。日光萎凋で花の香りが生まれる

一芯二葉で新芽を摘み、今年は台湾の包種茶(ほうしゅちゃ)の製法にならって仕上げることにした。

包種茶は、台湾を代表するお茶で、文山包種が有名だ。烏龍茶よりも発酵が浅く、日光でしおれさせることで花のような香りが生まれるのが特徴。茶の絵本にも作り方が掲載されていて、参考にした。

まずは太陽光に10数分さらしてしおれさせる(日光萎凋)。話に聞いていた通り、花のような香りが漂ってきた。室内に移して更に萎凋させ、その後は、1年目と同じようにホットプレートで釜炒りした。今回は記録写真を撮るのを忘れてしまった。

今年はお米のようなものは生まれず、家族に振る舞った所、好評だった。なによりも香りがよい。

紅茶のアールグレイは茶葉にベルガモットの香りを付けているフレーバーティーだが、茶葉自体から花の香りがするのが不思議だ。少量ということもあり、あっという間に飲み終わってしまった。


おわりに

苗木を植えてから数年。茶摘みから製茶まで、手を動かしてみてはじめて分かることがある。

茶葉を炒る芳香、揉みながら変わっていく色と手触り、そしてできあがったときの、どこかほっとした感覚。1年目の白いお米のような失敗作も、飲んでみれば悪くなかった。出来不出来はあれど、自分で育てた茶木の葉でお茶を作るというのは、なかなか得難い体験だった。

茶を一煎いただくたびに、茶農家の方々の手間暇を思う。それだけでも、この試みには意味があったように感じている。

目次