黄檗宗の精進料理「普茶料理」とは?

閑臥庵の普茶料理

江戸時代初期、隠元禅師が伝えた中国式の精進料理「普茶料理」(ふちゃりょうり)。その特徴と普茶料理を提供している寺院・お店を紹介します。

目次

普茶料理とは?

普茶料理の雲片(ウンペン)
代表的な普茶料理「雲片」(ウンペン)

「普茶」とは、「普く(あまねく)大衆に茶を供する」という意味です。普茶料理は、隠元禅師の来日とともに、江戸時代の初期、日本にもたらされました。

茶礼の謝茶で頂くご馳走

普茶料理は、黄檗宗の禅院で茶礼(※)の後の労をねぎらい、親睦を深める「謝茶」(しゃちゃ)で頂く御礼のご馳走です。

大勢の人々の力を借りて、 物事を成し遂げたことに対し、感謝を表すものとして振舞われました。元々は、仏前に供えられた野菜を下げて調理し、神人共食として頂きました。精進料理では食は修行ですが、普茶料理では食そのものを楽しむという違いがあります。

江戸時代の普茶料理の食事風景。座卓にはテーブルクロスがかけられている。 ※出典:普茶料理抄 2巻(西村未達 明和9年(1772))

※茶礼(されい):禅院の行事・法要にて、関係者一同と会し、茶を頂くこと

席に上下の隔てなく、同じものを同じだけ

普茶料理の特徴は、「飲食平等」。

長方形の卓を 4人で囲み、大皿の料理からみんなで分け合って頂きます。和気あいあいと料理を残さず食べるということのが、普茶の作法です。

中国文化の香りがし日本の山野に生まれた自然の産物を調理し、すべての衆が佛恩に応え報いるための料理です。

席に上下の隔たりなく一卓に四人が座して和気藹藹のうちに料理を残さず食するのが普茶の作法です。禅宗では「五観の偈(ごかんのげ)」という厳しい戒律もあることも忘れてはいけないことです。

萬福寺ホームページ

それまでの日本は一人一膳の銘々膳だったため、「テーブルを囲み、大皿に盛った料理を取り分ける」という食事のスタイルは大変珍しいものでした。異国情緒あふれる普茶料理は一般に受け入れられ、江戸時代には「普茶料理抄」などの専門の料理本も出版されました。

五観の偈

禅寺では、食前に「五観の偈」をお唱えします。「観」とは、心の眼で観ること。命を頂いて生かされていることに感謝し、自らを省みるという、食する前の心構えを説いたものです。

一には、功の多少を計り、彼の来處を量る

この食事がどうしてできたかを考え、食事が調うまでの多くの人々の働きに感謝をいたします。

二には、己が徳行の全缺と忖って供に応ず

自分の行いが、この食を頂くに価するものであるかどうか反省します。

三には、心を防ぎ過を離るることは貪等を宗とす

心を正しく保ち、誤った行いを避けるために、貪・瞋・痴(とんじんち ※)の三つの過ちを持たないことを誓います。

※貪・瞋・痴(とんじんち):貪=むさぼり、瞋=いかり、痴=おろか。仏教において、克服すべき最も根本的な三つの煩悩。三毒。

四には、正に良薬を事とするは形枯を療ぜんがためなり

食とは良薬なのであり、身体を養い、正しい健康を得るために頂くのです。

五には、成道の為の故に今この食を受く

今この食事を頂くのは、己の道を成し遂げるためです。

普茶料理の特徴

油糍(ユジ)。ナスやシイタケのほか、紅ショウガをエビに見立てた天ぷら。

魚・肉を使わず、油を使ったしっかりした味付け

肉や魚などの動物性の物を使わず、植物性の食品だけで作られています。

お出汁も鰹節や煮干は使わず、昆布・椎茸などの植物性の食材を使用。ニンニクやニラなど、精のつく食べ物は使いません。ここまでは精進料理と同じですが、精進料理と違いは植物油を多く使用します。

普茶料理のメニュー「菜単」

「菜単」(ツァイタン)は、中国語でメニュー・献立のこと。普茶料理では、ご飯を「飯子」(ハンツウ)、 酢の物を「酸菜」(サンツァイ) など、 明朝様式で料理名が書かれています。

二汁六菜を基本とし、代表的な料理として、肉や魚など似せた「もどき」、食材を無駄にせず、調理で出た野菜くずなどを余すことなく頂く「雲片」などがあります。酢の物を「酸菜」(サンツァイ) 、

普茶料理

筝羹(シュンカン)

旬の野菜や乾物の煮物などを盛り合わせた大皿料理。見た目にも華やか。飛竜頭、野菜の信田巻、お麩の揚げ焼き、野菜の煮物など。

雲片(ウンペン)

野菜を細かく刻み、葛で閉じた葛寄せ。五色の雲に見立てている 。調理で出た食材の切れ端も余すことなく細切れにし、すべて食す。

普茶料理の雲片(ウンペン)

油糍(ユジ)

下味をつけて揚げたてんぷら。一般的なてんぷらと違い、素材や衣そのものに味が付いている。梅干しや果物・菓子を揚げた変わり種もある。

もどき

精進料理の食材を使って、魚や肉や他の食べ物そっくりに仕上げた料理。 代表的なもどきに、豆腐と海苔の「鰻の蒲焼もどき」がある。

写真は茶そばを栗に見立てた「くりもどき」。

普茶料理の「もどき」

麻腐(マフ)

精進料理でもおなじみのごま豆腐。実は、元々は普茶料理が元祖。

写真は抹茶豆腐。

浸菜(シンツァイ)

浸し物。はしやすめとなる淡味。

巻繊(ケンチャン)

汁物。野菜や乾物の煮物や、揚げ物・蒸し物に葛あんをかけた料理。

水果(スイゴ)

食後のデザート。普茶料理では、果物と甘味を総称して水果という。抹茶団子や普茶饅頭(ごまのあげまんじゅう)など

普茶料理を頂けるお店

京都の他、東京・神奈川・熊本などに、普茶料理を頂ける寺院やお店があります。詳しくは以下をご覧ください。

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