10月。暑くもなく寒くもなく、着物で出歩くのによい気候に。今年の稽古も、残り僅かとなってきた。
十月の宝庵
庭にある巨石が、一面苔に覆われている。夏に来た時には、暑さでぼおっとしていたのか全く気付かなかった。奥に咲いているのは、ホトトギスの花だろうか。
先月、門の横に咲いていた百日紅はすっかり散り、つるつるした木肌が少し寂しげな姿に。
つくばいと柿
つくばいに柿。一気に秋を感じる。甘柿ではなく渋柿。甘くないと分かっていても、つい美味しそうと思ってしまう。
大人になってから「あんぽ柿」(渋柿を硫黄で燻蒸した干し柿)を頂き、その美味しさに驚いたもの。濃厚な甘さがスイーツのようで、クリームチーズを合わせるとまた美味しく、干し柿の甘さとチーズの爽やかな酸味が、お茶受けにぴったり。
柄杓のお手前「平成二景」
今月のお手前は、柄杓に大きな平成茶碗を用いる「平成二景」。
先月は瓢杓に小さいお茶碗だったので、手間座の風景がガラリと変わり、なかなか頭が切り替わらない。水指の蓋の扱い。右→左→右と手を持ち替え、水指の胴に立てかける。
杓の持ち方。杓を運ぶ手と、水をくみ注ぐ手。茶道と煎茶道で杓の扱いが違うそうで、お抹茶も習っている方は混乱しそうだ。
瓢箪から柄杓
柄杓は瓢(ひさご。瓢箪)を縦に2つに割ったものが原形で、瓢杓の方が歴史が古いのかもしれない。後に、転訛してひさごが「ひしゃく」となったそうだ。
柄杓について、気になって帰宅してから色々と調べてみた。
平安時代の辞書「倭名類聚鈔」によれば、「杓(瓢を附す)」とあり、和名のひさこに「比佐古」「瓢」「瓠」「匏」の漢字が当てられている。また、「奈利比佐古」(なりひさこ)とも言い、水を汲むための道具・飲むための道具と紹介されている。
杓[瓢附]
唐韻云杓[音与酌同和名比佐古]斟水器也
瓢[符宵反和名奈利比佐古]瓠也瓠[音与護同]匏也匏[薄交反]可為飲器者也
※倭名類聚鈔(源順 撰、1617年)巻16・器皿部 第23・木器類第203・6丁表8行目
酒を汲む道具としての「柄杓」
柄杓は「水を汲む道具」というイメージが強いが、酒を飲むための道具でもある。
八坂神社などで行われる神事「比佐古の舞」(猩々舞)では、柄杓で御神酒を飲み、参列者もお酒を振る舞う。また、更科日記では、「直柄の瓢」(ひたえのひさご。瓢杓のこと)が、酒酌み用の柄杓として登場する。
能の演目の「大瓶猩々」でも、酒を柄杓で汲んで飲む場面がある。お隣の韓国でも瓢箪柄杓を「パガジ」と言い、マッコリを汲むための道具だとか。
昼間は暖かかった稽古場も、足元や窓から冷えが忍び寄り、日が暮れるとあっという間に寒くなった。暖かいお茶が美味しい季節の到来だ。