煎茶稽古|2018年葉月

逗子の和菓子屋「こよみ」の季節の和菓子

立秋を過ぎ、残暑厳しく浴衣でお稽古に。

道すがら、蝉の抜け殻がちらほら、そして紫陽花。真ん丸のつぼみに、ガクアジサイのような花。つぼみの形から、玉紫陽花(タマアジサイ)というそう。

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夏の宝庵

百日紅の花

紋の横には、百日紅(さるすべり)の花が。

さるすべりと聞くと、杉浦日向子さんの歴史漫画「百日紅」を思い出す。杉浦さんは、漫画家にして江戸風俗研究家。江戸を描いた漫画や著書を多数出版している。

葛飾応為と煎茶手引の種

「百日紅」は、江戸時代の絵師・葛飾北斎と、その娘のお栄(画号は応為。栄女とも)を描いた作品。

以前、葛飾応為の代表作「吉原格子先の図」が太田記念美術館に展示されており、拝見したことがある。これまでの浮世絵のイメージとは一線を画す、光と闇の対比が美しい作品だった。

応為の作品は数少ないが、実は煎茶関連の絵も描いており、「煎茶手引の種」( 嘉永一年)の挿絵は応為の筆(この時の画号は栄女)。

煎茶手引の種(1848年、著:山本都竜軒、画:葛飾栄女)
煎茶手引の種(1848年、著:山本都竜軒、画:葛飾栄女)※出典:国立国会図書館デジタルコレクション

上図は、茶摘み娘の姿。右端の「江戸日本橋通り二丁目・山本加兵衛茶園(※現在の山本山)」の横に、「葛飾栄女 筆」と書いてあるのが読める。

そのほかにも本書の中で、煎茶会の茶事録や煎茶道具などを緻密に描いている。

煎茶手引の種(1848年、著:山本都竜軒、画:葛飾栄女)
煎茶手引の種(1848年、著:山本都竜軒、画:葛飾栄女)※出典:国立国会図書館デジタルコレクション

急冷式の「冷煎手前」

お稽古に話を戻すと、今月は先月に続き、氷を使った涼やかなお手前「冷煎」。

少し濃いめに玉露を淹れ、氷の上に注ぐ急冷式。茶の香りがよく出て、旨味の強い玉露の個性も生きる。

冷煎手前の氷

氷をたっぷりと使うので、とても贅沢なお手前。

淹れて頂いたお茶を飲むと、のどが潤い、美味しさに吐息がこぼれる。冷煎は、玉露の旨味の強さと、氷が溶けて後の薄味のさっぱりさと、一煎でも茶味の変化を楽しめる。

ただ、このうだるような暑さで、氷の溶けていく速度のとても早いこと。時間が経つにつれ、氷がつるりと滑り、なかなか箸でつかめない。エアコンのない和室では、難易度の高いお手前かもしれない。

季節の和菓子

こよみ製の季節の和菓子

お菓子は、逗子の「こよみ」製の季節の和菓子。

葉山の名店「日影茶屋」で修行されたご主人が、独立して開店したという和菓子屋さん。夏をテーマに、「向日葵」「波」「花火」の三種。

京都土産の俵屋吉富製の夏季限定「貴船の彩」を添えて。こちらは、貴船川をイメージした「干琥珀」(かんこはく)。琥珀糖を乾燥させた半生菓子を、「干琥珀」(琥珀、干し錦玉、わり氷とも)と言うそう。

琥珀糖はガラスのような透明感があるが、干琥珀は表面の砂糖が結晶化し、すりガラスのような見た目という違いがある。

口にすると、薄く糖化した表面はしゃりっとした食感、打って変わって内側は柔らかく甘さも控えめ。梅(桃色)・レモン(白色)・塩(水色)と、三色三味。はからずも主菓子と三の数字であいそろう。

宝瓶の扱い方

 宝瓶のあたり方

宝瓶の扱い方について、先生のレクチャー。

1つ。宝瓶の持ち方は、「注ぐ手」と「持つ手」の2種類。

茶を淹れたり、水を建水に捨てる時の「注ぐ手」。宝瓶台から持ち上げたり、元の位置に戻したりする時の「持つ手」。

2つ。宝瓶のあたり方は、呼吸と動作が連動する。

押す時は、息を吐きながらゆっくりと回す。引く時は、息を吸い、すっと戻す。緩急のリズム。

また、お道具を清める際の袱紗の扱い方、洋服と和服とで美しく見える腕の形が異なることなど、今まで意識が行き届いていなかったことが諸々。

来月のお稽古

来月は、水出しで玉露を淹れる「冷泉」(れいせん)手前のお稽古をするとのこと。初めてのお手前。

水出しで淹れると、味がまろやかで優しくなる印象がある。

氷の急冷式で使い大きな平成茶碗の「冷煎」、水出しで小さいお茶碗の「冷泉」。同じ茶葉でも、淹れ方で茶の味わいは異なる。来月もお稽古が楽しみ。

 玉紫陽花
玉紫陽花(ユキノシタ科アジサイ属)
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